公開日:2023-07-26 更新日:2024-01-16
火災保険が退去時の原状回復に使える?不動産オーナー必見の新基礎知識
賃貸物件の退去時に発生する原状回復費用は利回りに影響するため、大家さんを悩ませることが多い出費のひとつです。
しかし、原状回復の内容によっては入居者が加入している火災保険を使えるケースがあり、修理費用を抑えられる可能性があります。
火災保険で入居者の退去費用負担を抑えることは大家さんにとってもメリットがあり、適切な維持管理をすることで空室対策にもつながります。
アパート・マンション・戸建て、どのような賃貸物件にも共通の内容ですから、ぜひ不動産経営の参考にしてください。
・火災保険の対象は自然災害だけでなく、突発的な事故や破損にも使える可能性があります。
・免責額・事項・申請方法など、火災保険申請時の注意点も把握しておきましょう。
目次
■賃貸住宅の火災保険をおさらい
賃貸住宅の契約時は火災保険への加入を義務付けていることがほとんどです。
しかし実際に火災保険を使うケースは少ないため、内容を知らない方も多いでしょう。
まずは賃貸住宅の火災保険の基礎知識をおさらいしておきましょう。
家財保険 | 賃貸住宅が火災に遭ったとき、部屋の中に合った家具や家電などの家財が燃えてしまった場合に補償される |
借家人賠償責任補償 | 賃借人の過失で火事や水漏れなど偶発的な事故が発生した際、オーナーに対する法律上の損害賠償を負った場合に補償される |
修理費用補償(任意) | 飛び石によるガラス割れなど、賃貸借契約における賃借人の修理費用負担が発生した場合補償される |
賃貸住宅の火災保険に含まれるのは主に上の3種類の補償です。
家財保険・借家人賠償責任補償は一般的な火災保険の契約に含まれている基本的な内容で、火災はもちろん水漏れや突発的な事故などもカバーされます。
修理費用補償は任意オプションとなっているケースが多く、加入するかどうかは入居者の判断になります。
賃貸住宅の火災保険は掛け捨てタイプなので、退去時に使用しても保険料が高くなることはありません。
■火災保険が退去時の原状回復に使える?
結論からお伝えすると、退去時に発生する原状回復費用のうち一部について、火災保険が使える可能性があります。
賃貸住宅の退去時に発生する原状回復費の負担について、国土交通省は次のようなガイドラインを定めています。
- 賃借人が負担:賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損
- オーナーが負担:経年変化、通常の使用による損耗等の修繕費用
出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について
例えば入居者の過失によって壁に穴が開いてしまった場合、退去時の原状回復にかかった費用は敷金で清算するのが一般的です。
しかし原状回復の請求額に納得できずトラブルに発展したり、費用が敷金を上回る場合払ってもらえなかったりするケースが報告されています。
参照:独立行政法人国民生活センター 賃貸住宅の原状回復トラブル
トラブルに発展した場合かなり時間を取られますし、退去後に追加費用を請求しても払ってもらえないなど、大家さんが泣き寝入りするケースも多いようです。
結果的に不動産物件の利回りが悪化し、経営資金が不足するなどの事態も考えられます。
そこで、火災保険を使って入居者の原状回復費用負担を抑えることで、結果的に大家さんの負担やリスクの軽減にもつながります。
火災保険が原状回復に使えることを知らない方は少なくありません。
退去時に入居者に教えてあげることで、それぞれの費用負担軽減に役立てましょう。
■火災保険はどんな原状回復に使える?
原状回復に火災保険が使えるケース・使えないケースを具体的に見てみましょう。
※火災保険が使える原状回復の例
- 転倒してできたキズや穴の補修
- 物を落として割れてしまった床や設備の交換
- 飛来物によるガラス割れ
- 排水管の水漏れによるフローリング貼り替え
原則的に、偶発的な事故による建物の破損や汚れの原状回復費用は、火災保険が使える可能性があります。
また火災だけではなく、台風などによる飛来物の被害などもカバーされる可能性が高いです。
退去時の立会いで室内にキズ・穴・汚れなどがある場合、入居者に原因を確認してみて、偶発的な事故によるものなら火災保険の利用を進めるのが良いでしょう。
原状回復費用を確実に回収することで大家さんの費用負担を軽減し、同時にリフォームすれば空室対策にもなります。
※火災保険が使えない原状回復の例
- 日焼け・経年劣化・カビなどによる壁紙の張り替え
- 子どもの落書きによる壁紙やフローリングの補修
- 物が置いてあった畳やクッションフロアの凹み
- 模様替えでできたキズの補修
- 鍵の紛失によるシリンダー交換
一方、経年劣化や入居者の過失が原因でできたキズや汚れの原状回復費用は、火災保険の対象にはなりません。
保険会社によって判断が分かれることもありますが、お子さんのいたずらや模様替えでできたキズなどは、火災保険が使えない可能性が高いです。
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■火災保険利用時の注意点
免責額には上限がある
火災保険には免責額が設定されていて、保険金の請求額が下回る場合は支払われません。
免責額は火災保険会社やプランによって異なるため、事前に確認しておきましょう。
保険請求の期限は3年間
火災保険の請求期限は、保険法で次のように定められています。
第九十五条 (消滅時効)保険給付を請求する権利、保険料の返還を請求する権利及び第六十三条又は第九十二条に規定する保険料積立金の払戻しを請求する権利は、これらを行使することができる時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。
火災保険の対象となる破損や汚損でも、発生してから退去時まで3年以上経っている場合は時効となり請求権が消滅します。
またキズや汚れがついてから3年経っていない場合でも、時間が経つにつれて原因特定が難しくなり、保険金が支払われない可能性は高くなります。
室内の破損などが発生した際は素早く報告・連絡してもらうように促すなど、入居者と連携を取ることが大切です。
申請は必ず本人が行う
火災保険の代理請求ができるのは原則的に契約者本人のみで、弁護士・行政書士以外の人が申請代行すると非弁行為とみなされ違法になります。
例えば入居者の替わりに大家が書類に記入して申請をした場合、契約違反になり保険金が支払われない可能性があります。
必要な書類や申請方法のアドバイスまでは問題ありませんが、実際の手続きは必ず入居者本人にやってもらいましょう。
故意による破損か否か
わざと室内にキズを付けたり、破損内容を偽造したり、虚偽の申請をした場合は罪に問われる可能性があります。
第二百四十六条 (詐欺)人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
出典:e-gov法令検索 刑法
具体的には詐欺罪にあたり、懲役10年以下の重い罰則を受ける可能性があります。
虚偽申請が発覚して未遂に終わった場合も同じです。
専門家のアドバイスが有効
保険の適用や、現況の損害状況の調査にあたっては、客観性が重要です。
故意による破損かどうかも適切な判断が必要ですので、信頼できるFP(ファイナンシャルプランナー)や火災保険に詳しい専門家のサポートを受けながら申請することをおすすめします。
▼Financial Planning/ファイナンシャルプランナーへの相談はこちら
■アパート・マンション・戸建て賃貸の修繕費用にも火災保険が使える?
ここまでご紹介したのは、退去時の原状回復費用に入居者が加入している火災保険を使う方法です。
しかし、アパート・マンション・戸建て賃貸の新築や購入時にオーナー自身が火災保険に加入している場合、修繕費用に使える可能性もあります。
前述したように、火災保険は火事以外にも落雷・水害・爆発などの自然災害、盗難被害なども補償対象となるのです。
例えば台風で屋根が飛ばされてしまった、大雨で雨漏りが発生した場合の修繕費用は、火災保険の対象となる可能性があります。
車の事故・ガス爆発・隕石の飛来など、予測・防止が難しい事故の修繕費用も保障されるケースが多いです。
突発的な出費を軽減できる可能性がありますので、アパートの修繕工事を検討する際は、火災保険が使えないか確認してみるのがおすすめです。
■まとめ
賃貸住宅の退去時、大規模な修繕時は、火災保険を使って費用を抑えられる可能性があります。
入居者・オーナー双方にメリットがありますので、ぜひ火災保険の契約内容を見直してみてください。
また、アパートやマンションの原状回復や大規模修繕を行う際は、リフォーム・リノベーションによる空室対策も併せて検討してみましょう。
原状回復や修繕工事に合わせてリノベーションすることで、費用を抑えて賃貸物件の魅力やポテンシャルを引き上げることができます。
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