公開日:2025-11-12
マンションの老朽化と立ち退き問題|建替えが難しいときのリノベーション解決策

近年、老朽化したマンションの建て替えを検討する際、立ち退き問題が大きなハードルになるケースが増えています。
実際にマンションの建替えを進めるためには、立ち退き料をはじめとする資金負担や管理組合での合意形成、法規制の制約など、数多くのハードルに直面します。
そこで注目されているのが、老朽化したマンションをリノベーションによって再生する手法です。
本記事では、老朽化したマンションの立ち退き問題と建て替えが難しい理由、区分リノベーション・一棟リノベーションという具体的な解決策をご紹介します。
- ・老朽化したマンションの建て替えでは、入居者の立ち退き交渉がハードルになり計画が進まないケースが多いです。
- ・マンション1部屋ごとの区分リノベーションなら、入居者の退去や費用負担なしで収益性を回復可能です。
- ・新築同様に仕上げる一棟リノベーションも、建て替えより工事期間を短縮できるため立ち退き交渉を有利に進められる可能性があります。
目次
■老朽化マンションの増加による立ち退き問題の現状
まずは、老朽化したマンションの建て替えや立ち退きに関する現状やリスクについて整理してみましょう。
築40年以上のマンションが増加傾向

出典:国土交通省 築40年以上の分譲マンション数の推移(2024(令和6)年末現在)
日本では全国的に老朽化したマンションが急増しており、建て替えや立ち退きについて悩むオーナーも増えています。
国土交通省によると築40年以上のマンションは2024年末時点で148万戸存在し、10年前の約3倍に増加しました。
10年後はさらに約2倍、20年後には約3.3倍に増加する見込みで、今後ますます深刻化すると予測されています。
老朽化したマンションのリスク

マンションの築年数が経ち外観や内装・設備などの老朽化が進むと、さまざまなリスクが発生します。
※老朽化したマンションのリスク
- 外壁の剥落や雨漏り、設備の故障などが発生しやすくなる
- 新築マンションと比較して断熱性や耐震性が不足
- 修繕費の増加や空室率の上昇による収益性の低下
マンションの老朽化が進むと、上記のように安全性や快適性などさまざまな面でリスクが発生します。
鉄筋コンクリート造のビルやマンションは、建物自体の耐久性は高いですが、築年数が建つほど入居率や収益性が低下していくのが一般的です。
〈関連コラム〉
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老朽化して入居率や家賃収入などが低下したマンションは、建て替えによって収益性や資産価値を回復させる考えが一般的でした。
しかし、建て替えには入居者の立ち退きが不可欠であり、実際には合意形成や費用負担などの面で難易度が高いのが現状です。
次の章で、マンションの建て替えが難しい理由やハードルについて詳しく見ていきましょう。
■マンション建替えの立ち退きはなぜ難しいのか

一棟所有のマンションを建替える場合、オーナーの判断で意思決定は可能ですが、実際は入居者の立ち退きが最大のハードルとなることが多いです。
マンションの立ち退きが難しい理由について、2つの視点からチェックしていきましょう。
立ち退き料・補償の負担が大きい
マンションの入居者に退去してもらうためには、立ち退き料を支払う必要があり、規模や交渉内容によっては大きなハードルとなります。
建て替えによる退去はオーナー側の都合による要請となるため、引っ越し費用や移転先との賃料の差額などを負担する必要があるのです。
立ち退き料の相場は法律で明確に定められていませんが、居住用マンションの場合は家賃の6か月分前後が目安とされることが多いです。
例えば、家賃10万円の部屋が15戸あるマンションを建替える場合、立ち退き料だけでおよそ およそ900万円(10万円×6か月×15戸)が必要になります。
さらに、入居者が高齢であったり長期間住み続けたりしている場合は、生活基盤を失う負担が大きいなどの理由で、より高額の補償を求められるケースも少なくありません。
補償額をめぐる交渉が長期化してトラブルや訴訟に発展した場合、弁護士費用などがかかる可能性もあります。
立ち退きに反対する入居者の存在
マンションの立ち退き交渉では、退去を拒む入居者の存在がハードルになることも多いです。
入居者にとっては引っ越しによって生活基盤が大きく変わることになるため、立ち退きを拒むケースが少なくないのです。
特に、体力的に引っ越しが難しい高齢入居者や、長年住み続けている入居者が居るマンションは、立ち退き交渉が難航する傾向があります。
借地借家法では賃借人(入居者)の権利が強く保護されているため、建て替えの正当な理由があっても立ち退き拒否への対応は難しいです。
■マンションの建て替えが難しいならリノベーションも検討しよう

前述したようにマンションの建て替えに伴う入居者の立ち退きが難しい場合は、リノベーションで対応するのも1つの考え方です。
マンションのリノベーションは「区分リノベーション」「一棟リノベーション」の2パターンあり、入居状況や立ち退き交渉に合わせて検討することができます。
それぞれのリノベーション方法について、難易度や費用負担など建て替えと比較してみましょう。
①区分リノベーション

建て替えでまとまった費用を負担するのが難しかったり、入居者の立ち退き交渉が難航したりする場合は、区分リノベーションでマンションの収益性や資産価値を向上させる方法があります。
区分リノベーションとはマンションを1部屋ずつ改修する方法です。
※区分リノベーションのメリット
- 入居者の立ち退き交渉と費用負担が不要
- 1部屋単位で費用負担を分散できる
- 工事期間中も家賃収入が途絶えない
- リノベ済み住戸から段階的に収益性を回復できる
入居者が退去したタイミングなら、立ち退き交渉や費用負担なしで区分リノベーションできるのが大きなメリットです。
また、建て替えだとまとまった資金が必要になりますが、区分リノベーションなら1部屋単位で負担を分散できるのも魅力的なポイント。
入居者が住んでいる状態で1部屋ずつリノベーションできるため、家賃収入が途絶えないのも特徴です。
リノベーションが完了した部屋から賃料設定を見直し、段階的に収益性を高めることも可能です。
ただし、区分リノベーションはエレベーターや共用廊下などはそのままなので、建物全体の老朽化には対応できないケースもあります。
また、共用部が古いままで残ってしまうと、マンション全体の資産価値や魅力を高めることができず、空室対策や家賃の引き上げなどの効果が限定的になるケースがあるのもデメリットです。
特に築年数が古いマンションは、次の章で紹介する一棟リノベーションでの空室対策も検討してみましょう。
②一棟リノベーション

マンション全体の一棟リノベーションは、区分リノベーションと建て替えの中間的な選択肢です。
※一棟リノベーションのメリット
- 建て替えより費用と工事期間を抑えられる
- 共用部もまとめてリニューアルできる
- コンセプトに合わせたプランニングで収益性を高められる
マンション全体をリニューアルする点は建て替えと同じですが、費用の負担や工事期間を抑えられるのが一棟リノベーションのメリット。
一棟リノベーションでも入居者の立ち退きは必要ですが、工事期間が短いため交渉しやすくなる可能性があります。
例えば、リノベーション期間中は仮住まいをしてもらい、工事が完了したら再び入居してもらうといった選択肢も生まれます。
また、一棟リノベーションなら共用部も含めて一新でき、ターゲットユーザーに合わせたプランニングでさらに収益性を高めることも可能です。
一棟リノベーションについてはこちらのコラムでも詳しく解説しています。
〈関連コラム〉
一棟リノベーションのメリット・デメリット|費用相場と事例も紹介
区分リノベーション・一棟リノベーションと建て替えの比較まとめ
ここまで見てきたように、区分リノベーション・一棟リノベーションは建て替えと比較してさまざまなメリットがあります。
立ち退きだけでなく、費用や工期といった面についての比較を分かりやすく表にまとめました。
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比較項目
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建て替え
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一棟リノベーション
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区分リノベーション
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|---|---|---|---|
| 費用 | ×(最も高額) | ○(建て替えの5~7割) | ◎(1戸単位で安価) |
| 工事期間 | ×(長期) | ○(建て替えより短い) | ◎(最短) |
| 立ち退き交渉 | 必須(最難関) | 原則必須(※交渉余地あり) | 不要(空室発生時) |
| 共用部改修 | ◎(全て一新) | ○(可能) | ×(不可) |
| 収益改善効果 | ◎(最大) | ○(全体的にUP) | △(実施戸室のみ) |
建て替えは共用部も含めて一新できるため、マンションの資産価値や収益性を高められるのが魅力的ですが、費用負担も大きいのがデメリットです。
一方、区分リノベーションや一棟リノベーションは、建物の状態や予算などに合わせてプランを調節でき、立ち退き交渉の難易度も建て替えより抑えられるのがメリット。
どの方法が適しているかはケースバイケースなので、複数の選択肢を比較検討してみるのがおすすめです。
■老朽化したマンションの立ち退きに関するQ&A

実際に老朽化したマンションの建て替えやリノベーションで立ち退き交渉をする際、よくある質問をまとめました。
Q.入居者が立ち退きを拒んだ場合どうなる?
A.交渉がまとまらないと裁判になるケースもあります
借地借家法で入居者の権利は強く保護されているため、オーナー側が一方的に退去を強制することはできません。
建替えや老朽化などの正当事由があっても、立ち退き料や仮住まいの斡旋など、入居者に十分な補償を提示する必要があり、交渉がまとまらない場合は裁判で解決を図るケースもあります。
Q.立ち退き料は必ず支払わなければならない?
A.ほとんどの場合は支払う必要があります
立ち退き料は法律で明確に規定されているわけではありませんが、実際は支払われるケースがほとんどです。
立ち退き料は「引っ越し費用+新居の初期費用+精神的損失の補填」などを含み、居住用では家賃の6か月分前後が目安とされます。
Q.立ち退き交渉をスムーズに進める方法は?
A.入居者の事情に寄り添って柔軟に対応しましょう
立ち退きを拒否する入居者が居る場合は、理由についてしっかりヒアリングし、事情に合わせた柔軟な対応をするのが交渉をスムーズに進めるポイントです。
工事中の仮住まいや引っ越し業者の紹介、完成後の再入居優先権など、理由に合わせて対応を検討しましょう。
■まとめ
築年数が経ったマンションの建て替えでは、入居者の立ち退き交渉や費用負担がハードルになるケースが多いです。
立ち退きの難易度が高い、または交渉がうまくいかない場合は、区分リノベーションや一棟リノベーションも検討してみましょう。

SHUKEN Reは、多くの住宅改修で培ったノウハウを活かし、マンションの区分リノベーションから一棟リノベーションまで柔軟にサポートいたします。
現在の状況や目的に合わせたご提案も可能ですので、ぜひお気軽にご相談ください。









