公開日:2025-02-24
ビルオーナーの相続対策|相続税の計算方法や節税のポイント、トラブルを防ぐポイントを解説
相続対策はビルオーナーにとって重要な課題です。
ビルの相続では、高額な相続税が負担になったり、親族間でのトラブルが発生したりするケースが少なくありません。
また、商業ビルなどテナントが入居している場合は、相続後にビルをどのように運用するのか決めておかないとトラブルに発展するリスクもあります。
そこでこの記事では、ビルオーナーがとるべき相続対策について詳しく解説します。
・ビルの相続税は不動産単体で計算できず、遺産総額や法定相続人の数によって税額が変動します。
・不動産評価額を下げ、相続税を抑えるための節税対策をご紹介します。
■ビルオーナーがとるべき3つの相続対策
具体的な内容を掘り下げる前に、まずはビルオーナーが取るべき相続対策について、大きく3つのジャンルに分けて大枠を確認しておきましょう。
相続税の負担軽減
ビルをはじめとする不動産は相続の方法によって税負担が大きく変わるため、相続税の負担軽減が重要となります。
相続税は累進課税制度となっており、資産価値が高いビルなどの不動産を相続する際は、税額が高額になりやすいです。
原則的に相続税は現金による一括納付のため、税額を把握して準備しておかないと支払えない可能性も考えられます。
相続税はビルオーナーにとって特に大きな課題のため、計算方法や節税対策について次の章以降で詳しく解説します。
相続トラブルの予防
相続人が複数いる場合は、誰がビルを相続するのかあらかじめ決めておき、意見の食い違いによるトラブルを防ぐのも重要な対策の1つです。
ビルなどの不動産は現金と違い現物で分割できず、相続争いの原因となりトラブルに発展するケースも少なくありません。
また、複数の相続人でそのまま共有相続する場合、全員の承諾がないと運用や売却の方針を決められないため、トラブルの原因になりやすいです。
トラブルを回避するためには、法定相続人全員で事前に話し合い、ほかの財産を含めて誰がビルを相続するのか決めておくのが理想的です。
ビルなどの不動産は必ず共有で相続する必要はなく、遺言書や遺産分割協議によって相続する人を指定できます。
ほかの財産や生前贈与なども踏まえつつ、なるべく全員が納得できるような相続方法について話し合いましょう。
相続後の運用方法の検討
テナントが入居している商業ビルなどを相続する場合、相続後の運用について事前に検討しておくことも重要です。
集金や管理などの業務、どこまでを委託しているのかなど把握しておかないと、相続後の運用でトラブルが発生する可能性があります。
また、メンテナンス履歴や大規模修繕のタイミングなどを把握し、維持管理費用がどれくらいかかるのかも把握しておく必要もあります。
仮にテナントが入居中で家賃収入があるビルでも、収益性が低い場合は売却などを検討しないと、相続後の維持管理が負担になるリスクも。
相続時のことだけでなく、引き継いだ後の運用や経営計画まで立てて対策しましょう。
■ビルの相続税はいくら?計算方法を紹介
これからビルを相続してオーナーになる方にとって、相続税がいくらぐらいになるのかは必ず確認すべきポイントです。
特に資産価値が高い商業ビルなどを相続する場合、相続税が高額になることもあるため、事前に準備しておく必要があります。
相続税は遺産総額や法定相続人の人数で変化するため、ビル単体で計算することはできません。
- ①ビルの土地と建物の課税評価額を調べる
- ②遺産総額を調べる
- ③法定相続人を確定させて基礎控除額を引く
- ④法定相続分に応じて相続税額を計算する
ここでは、基本的な相続税の計算方法と仕組みを把握して、ご自身の状況に合わせて税額が分かるようにしておきましょう。
①ビルの土地と建物の課税評価額を調べる
まずは相続税を計算する元となる、ビルの土地と建物の相続税評価額を調べましょう。
※ビルの相続税評価額
- 土地:路線価×土地の面積
- 建物:固定資産税評価額と同じ
土地の相続税評価額は、国税庁の路線価図で路線価を調べ、敷地面積を乗じて求めることができます。
路線価が設定されていない土地の場合は、固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて相続税評価額を求めます。
建物の相続税評価額は、固定資産税評価額と同じなので、ビルがある市町村から送られてくる固定資産税の納税通知書で確認可能です。
②遺産総額を調べる
相続税を計算するためには、相続対象となる遺産総額を把握する必要があります。
※相続税の課税対象となる財産の例
- 現金や預貯金
- 株式などの有価証券
- 宝石や骨董品
- 土地や家屋などの不動産
- 特許権や著作権など経済的価値のあるもの
具体的には、上記のように金銭として見積もることができる財産は相続税の課税対象となります。
また、プラスの財産だけでなく、住宅ローンや自動車ローンなどの借金、未払いの税金などマイナスの財産も相続税の対象です。
プラス・マイナス全ての財産を合計し、遺産総額を明確にしましょう。
③法定相続人を確定させて基礎控除額を引く
遺産総額を把握したら、法定相続人が何人いるのか確定させて、基礎控除額を差し引き課税遺産総額を計算します。
まずは法定相続人の人数に応じて基礎控除額を計算します。
※相続税の基礎控除額
- 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
法定相続人の数 | 1人 | 2人 | 3人 | 4人 |
基礎控除額 | 3,600万円 | 4,200万円 | 4,800万円 | 5,400万円 |
仮に、法定相続人が子2人で遺産総額が8,000万円の場合、基礎控除額の4,200万円を差し引いて3,800万円が課税される金額です。
ビルを含めた遺産総額を基礎控除額が上回る場合は、相続税は課税されません。
④法定相続分に応じて相続税額を計算する
課税遺産総額と法定相続人が確定したら、法定相続分に応じて税額を計算します。
法定相続分とは、相続人が2人以上いる場合の相続割合のことです。
仮に課税遺産総額4,000万円、配偶者、子供2人が相続人の場合は、法定相続分は次のようになります。
相続割合 | 法定相続分 | |
配偶者 | 1/2 | 2,000万円 |
子 | 1/4 | 1,000万円 |
子 | 1/4 | 1,000万円 |
相続税は累進課税となっていて、法定相続分に応じて10~55%の税率が定められています。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | - |
1,000万円超から3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円超から5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円超から1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超から2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超から3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
3億円超から6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
先ほど求めた法定相続分に当てはめて計算すると、相続税額は下記のようになります。
- 配偶者: 2,000万円 × 15% - 50万円 = 250万円
- 子 : 1,000万円 × 10% = 100万円
配偶者と子2人の金額を合計すると、450万円が相続税の総額になり、法定相続分で相続した場合は下記が実際の税額となります。
計算式 | 相続税額 | |
配偶者 | 450万円×1/2 | 225万円 |
子 | 450万円×1/4 | 112.5万円 |
子 | 450万円×1/4 | 112.5万円 |
実際の相続は必ず法定相続分に応じて割合を決める必要はありません。
遺産分割協議や遺言書によって相続割合を決めた場合は、税額も変動します。
また、ここで解説したのは基本的な相続税の計算方法で、特例などを活用してビルの相続税評価額を下げることも可能です。
次の章から、ビルオーナーが検討すべき相続税対策をチェックしていきましょう。
■ビルオーナーの相続税対策
ビルなどの不動産は相続する方法によって、相続税が変動します。
ビルオーナーが相続税の負担を軽減するための、代表的な対策をご紹介します。
テナントや住居として賃貸し評価額を下げる
ビルはテナントや住宅として貸し出すことで評価額が低くなり、相続税を抑えることができます。
テナントなどが入居しているビルの土地は「貸家建付地」と呼ばれ、借地権割合・借家権割合を評価額から控除できます。
建物も賃貸している状態なら借家権割合を控除でき、評価額を下げることで相続税も抑えることが可能です。
賃貸経営しているビルでも、空室だと控除はできないため、なるべくテナントを入居させて相続税対策しましょう。
空き家状態のビルは、リノベーションで資産価値を向上させて、入居率を高めてから相続した方が節税になります。
こちらのコラムでビル一棟リノベーションについて詳しく解説しています。
〈関連コラム〉
小規模宅地等の特例を活用する
相続前に自宅や事業に活用していたビルは、小規模宅地等の特例によって評価額を下げ相続税を抑えられるケースもあります。
小規模宅地等の特例を適用できる場合、土地の評価額を自用地の場合80%、事業用地の場合50%減額できます。
参照:国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
■ビルオーナーの相続でよくある疑問
最後に、ビルを相続する方が疑問に感じることが多いポイントをまとめてご紹介します。
生前贈与と相続はどちらが節税になる?
ビルやマンションなどの不動産は、生前贈与か相続どちらの方が節税効果が高いか疑問に感じる方が多いようです。
結論としては、生前贈与と相続どちらが節税になるかはケースバイケースです。
例えば、将来値上がりが期待できるビルの場合、相続時精算課税制度などを活用して生前贈与した方が、相続税額を抑えられる可能性があります。
しかし、逆にビルの資産価値が低下した場合、かえって税負担が大きくなってしまうリスクも。
生前贈与による贈与税と相続税どちらが節税効果が高いかは、さまざまな要素が影響するため、一概には判断できません。
特に資産価値が高いビルを相続してオーナーになる方は、相続に強い専門家に相談するのがおすすめです。
相続税が支払えない場合はどうすればいい?
ビルなど不動産の相続税は高額になることもあるため、支払いが心配になる方も少なくありません。
相続税は、「被相続人が死亡したことを知った日(通常の場合は、被相続人の死亡の日)の翌日から10か月以内」に、原則的には現金で納付することになっています。
相続してから支払いまでの期間が短いため、ビルを売却して現金化したり、家賃収入でまかなったりするのは難しいです。
相続税を現金で支払うのが難しいときは、何年かに分割する延納や、取得した財産で支払う物納制度などを活用するのが一般的です。
また、どうしても相続税を支払うのが難しい場合は、相続放棄するのも1つの選択肢です。
ただし、ビルだけを相続放棄することはできず、すべての財産を受け取ることができなくなるため、遺産総額などほかの要素も踏まえて慎重に検討しましょう。
■まとめ
これからビルを相続しオーナーになる方にとって、相続対策はかかせません。
相続税がいくらになるのか把握し、税負担を軽減する対策をすることで、スムーズにビルを相続することができます。
また、事前協議による相続トラブルの回避や、相続後の運用方法の確認なども、ビルオーナーがするべき重要な相続対策です。
せっかくスムーズにビルを相続しても、運用でトラブルが発生したり、収益性が低かったりしては意味がありません。
収益性が低いビルの場合は、買い替えやリノベーションなどを検討し、資産価値や家賃収入を高める工夫が必要です。
SHUKEN Reは、これまで培ってきた住宅改修のノウハウを活かし、ビルリノベーションをお手伝いする専門会社です。
建物の状態確認やメンテナンス、空室対策のためのリノベーションなど、どんなこともお気軽にご相談ください。