Cinematic
ともにデザイナーとして活躍するUさまご夫妻。今回のリノベにもお2人ならではの美的感覚が生かされ、完成したご自宅はどのスペースも絵になる美しさです。
2017年にご結婚されたお2人は、最初から中古リノベを希望していたそう。当時お住まいだった賃貸アパートは日当たりや断熱性に難があり、コロナ禍の在宅ワークではかなりストレスを感じていたのだとか。
そろそろ中古マンションを手に入れてリノベしよう!と思い立ったのは2022年。まずは物件探しから相談したいと、私たちのワンストップサービスを利用してくださいました。
「1つの会社で物件探しから設計、施工まで完結したいと考えていて。SHUKEN Reさんは施工事例のルックも素敵だったし、設計・施工が一貫しているから、自分たちの要望が現場まで伝わりやすいと思ったんです」
物件探しの際は、1日かけて3カ所を回ったうち、3軒目で理想の物件にヒット。床面積は条件よりもやや小さめでしたが、日当たりのよさや周囲の落ちついた環境が気に入り、すぐに購入を決めたといいます。
間取りもデザインも自分たち好みにできるのが、中古リノベの最大の魅力。Uさまもカラーチャートつきのイメージボードを作成するなど、デザイナーさんならではのスキルをフル活用して、そのメリットを最大限に生かされました。
「好き」を詰め込んだLDK
最初にご紹介するのは、たっぷりの日差しが心地いいダイニングスペース。元の間取りではここにキッチンがありましたが、隣の洋室だった場所まで移動させ、広いワンルームのLDKにプラン変更しました。
ラウンドテーブルはイギリスのヴィンテージ。「ERCOL」や「ETHAN ALLEN」のチェア、「カリモク」のドレッサーなど、古くて美しい家具を厳選しています。
ハンギングで高低差をつけた観葉植物のディスプレイも、空間の引き立て役に。「入居してからグリーンが増える一方です」とUさま。水やりなどの管理はもっぱらご主人の担当なのだとか。
床は念願だったチーク材のヘリンボーン。「予算はかかったけれど、これだけは譲れませんでした」とお2 人が語る、こだわりの素材です。のちほどご紹介しますが、LDだけでなく廊下まで同じ仕上げにしたのもポイントです。
壁際の小さなカップボードは「ACME Furniture」。中には「Astier de Villatte」などの大切な食器を収めています。このエリアは奥さまの好きなものを集めてスタイリング。小さくて愛らしい雑貨たちについつい見入ってしまいます。
キッチンカウンターはダイニングに向けて配置しました。窓からの光が十分に届き、LDとの一体感も楽しめるレイアウトです。
カウンターの仕上げにはモルタルを使い、きりっとした角のラインを出しました。こうしたディティールがUさま宅の美しさの秘密。水回りにつきものの生活感をさりげなく払拭しています。
コンロ脇と背面の壁はタイル。ベーシックな白の角タイル+グレーの目地という組み合わせが、プロ仕様の厨房のような雰囲気を醸し出しています。
「キッチンの素材使いやデザインは、等々力にある『ASAKO IWAYANAGI SALON DE THÉ』を参考にしました。大好きなお店で、リノベするならこんな要素も採り入れたいねと話し合っていたんです」
真鍮の質感とシンプルなデザインが素敵なペンダントは、目黒のインテリアショップ「POINT No.38」で。ダイニングの照明も同店で選びました。
背面には奥行きの浅いオープンシェルフを造りつけ、落下防止のバーをプラスしました。ちょっとした吊るす収納まで絵になりますね♪
キッチンは「サンワカンパニー」。こちらも水回り設備によくある丸みのあるデザインではなく、直線ラインを生かしたビジュアルが決め手になりました。背面収納は「クリナップ」、床は手入れがしやすく水濡れが気にならないフロアタイルに。
キッチンの奥にはパントリーを設け、冷蔵庫から雑多なキッチンツールまですっきりと収めています。入り口はアールのついた愛らしいデザイン。内部の壁には青みがかったグリーンのアクセントクロスを採用しました。
この色使いとアールの曲線、「STORAGE」のフォントなどは、映画監督ウェス・アンダーソンの世界観を参照しています。
奇想天外なストーリーに隠された哀しみや可笑しみもさることながら、カラフルな美術や細部まで作り込まれた画面構成に熱狂的なファンが多く、その人気は世界中から“ウェス・アンダーソンすぎる風景”を集めた写真集や展覧会が企画されるほど。もちろんUさまもお気に入りの映画監督の1人で、特に奥さまにとってはリノベのイメージの源泉になりました。
「妻の好みがウェス・アンダーソンっぽいポップなイメージなのに対して、僕の好みはアメリカの古いものから感じられるような、ちょっと無骨で無機質なイメージ。その2つをミックスさせて、甘すぎずハードすぎないようにバランスを取ったんです」
というご主人のお言葉に納得!Uさま宅に漂う独特の空気感の理由がわかりました。
室内窓で2つの空間を心地よく
ダイニングキッチンからそのままつながるリビングも、お2人の好みを絶妙に反映させたミックススタイル。正面の壁は1面だけ淡いグレーのアクセントクロスで仕上げ、空間の奥行きを演出しました。
「カリモク」のソファは長年の愛用品。レコードラックは今回のリノベに合わせてオーダーしました。壁に立てかけられたフレームは、ジム・ジャームッシュの監督作品「コーヒー& シガレッツ」のポスター。W・アンダーソン×J・ジャームッシュという組み合わせが、U さま宅のテーマをそのまま表しているよう。
さらにリビングで目を引くのは、大きな木枠の室内窓です。「リノベの事例をたくさん見ている中で、ぜひ採り入れたかったのが室内窓でした」。今回のプランではリビングとワークスペースの間に造作しました。
よくあるアイアン製ではなく木製にすることで、柔らかさと端正な雰囲気が両立。もちろん見た目だけでなく、奥にあるワークスペースの採光や風通しにも役立っています。
リビングからダイニングにかけて、天井付近に1本のオープンシェルフが。これは撤去できない梁の存在感を軽くするために設置したもの。「飾り棚としても使えますが、これから猫を迎える予定なので、キャットウォークとしても活躍してくれるかもしれません」
こちらが室内窓でリビングとつながるワークスペース。もともとは和室だったスペースを、ワークスペースと予備室で分け合うようにプランしました。
窓際にはデスクカウンター、背面にはDVDやフィギュアのコレクションを並べられる収納棚を造作。キャスターつきチェアは「カリモク」。ここにもJ・ジャームッシュ作品のポスターが!
「壁のサインは自分たちで描くことも考えましたが、いかにもDIYっぽくなるのは避けたくて。ずっとサインペイントに憧れていたので、これを機に思い切ってプロの方にお願いしました」。このこだわりが功を奏して、お住まい全体を印象づける魅力的なアイコンになりました。
寝室や水回りでもインテリアを堪能
LDに採り入れたヘリンボーンの床は廊下にも続いています。「コストを下げるために床材を変えることも検討しましたが、ほかの予算を削ってこちらを優先させました」。ヘリンボーンのクラシカルな表情をエントランスから満喫できます。
廊下の壁一面はニッチのように掘り込み、たくさんの蔵書を収める本棚に。裏側にあるクローゼットと背中合わせにプランし、棚の奥行きは本のサイズに合わせました。
ご主人の“無機質な古いもの好き”がさりげなく表れているのが、このUSスイッチ。縦目のヘアラインのプレートを「toolbox」で探しました。「実家が工場なので、こういうテイストのものに愛着があるんです。アイアンを使ったインダストリアル風はハードすぎるので、ステンレスのほうが好みですね」
廊下に吊るされた「HAY」のシャワーカーテンを開けると、中は寝室。「洗面所の入り口もこれと色違いのカーテンです。ドアを減らすとコストカットになりますし、掃除もラクなんですよ」
寝室のコーナーにはトルソーが。お気に入りのワードローブをしまい込まずにインテリアとして生かしています。フローリングのように見える床は、実はフロアタイル。質感も硬めで、触れてもフロアタイルとは分からないほどでした。
トルソーの背後にあるハンガーラックは、「Creema」で好みの作風のクリエイターさんを探してセミオーダー。手頃な予算で好きなデザインの家具が手に入るため、何度か利用しているそう。
枕元の小さなニッチの中は、彩度を抑えた落ちついた色合いのカラークロス。天井付近にはキッチンにつながる室内窓も設けました。
寝室の向かいは、将来の子ども部屋にもなる予備室。こちらは腰壁にカラークロスを使い、ツートンのカラーリングを楽しんでいます。
洗面室では造作工事をふんだんに採り入れて、こだわりを形に。かわいいがぎゅっと凝縮された魅力あふれるスペースです。
手洗いボウルは「TOTO」の実験用シンク、壁づけにした水栓金具は「カクダイ」。タイルと目地はキッチン、壁のクロスはパントリーとお揃いです。
何といってもかわいいのが、ハニカムタイルで仕上げた床!ガラス質のツヤ感とレトロな雰囲気にほれぼれしてしまいます。コストや手入れなどの面からフロアタイルが人気ですが、やっぱり本物のタイルにしか出せない味わいもあるんですね。
「Panasonic」のドラム式洗濯機は、リノベを機に新調したもの。こちらもキッチンと同様、丸みがなく角張ったルックが決め手になりました。
トイレの壁もパントリーや洗面室と色みを揃えました。「使いたい色はたくさんありましたが、そこはグッとこらえて(笑)、住まい全体に統一感を大切にしました」と奥さま。収納はシンプルなオープンシェルフのみに。
「玄関は最初から広くしたいと希望していました」とお2人。以前住んでいたアパートは玄関が狭く、靴を増やせないのが悩みの種だったそう。そこでリノベで広い土間スペースを確保。床はモルタルを左官仕上げにしました。
モルタルの土間は奥まで続き、靴や園芸用の土なども置ける広さに。棚はすべて扉のないオープンスタイルにして、棚板の高さを変えられるようにしました。猫ちゃんとの生活がスタートしたら、ペット用品の収納場所としても活躍してくれそうです。
どのスペースを拝見しても、完成度の高さに驚きの連続だったUさま宅。実はU さまご自身も、工事完了後の引き渡しの際、初めて室内に入ったときに同じ感想を持たれたといいます。
「自分たちがリクエストしたものとはいえ、どこを見ても想像以上の完成度で、本当にびっくりしました。自分たちがこの家にふさわしいのか不安になるくらい(笑)。それだけデザイナーさんや職人さんの技術が高かったのだと思います。
SHUKEN Reさんのお仕事の丁寧さには、実は工事中から気づいていたんです。廊下やエレベーターなどの養生がすごくきれいで。私たちが入居してから、このマンションにも何軒かリノベ・リフォーム工事が入りましたが、あんなにしっかりと養生している業者さんはいないんですよね。小さなことですが、そういう基本的なことが信頼につながるのかなという気がします」
これから猫を迎えるのが楽しみ、子どもも生まれたらいいな、と話されていたUさま。このお住まいににぎやかな声が響く日は、それほど遠くないかもしれません。
お忙しい中、取材・撮影にご協力いただき、ありがとうございました。
取材・文/ライター後藤由里子
撮影/カメラマン清永洋