心地よい「秩序感」が漂う家|ORDERED BROOKLYN
◆「どんな家に住みたいか」夫婦でイメージを共有
豊かな緑と静かな住宅街。そして昔ながらの商店街が共存する武蔵野エリア。かつて多くの文豪が愛した「武蔵野」は現在、ゆとりのある居住区として若い子育て世代が注目する人気の地域です。今回ご紹介するKさん邸も緑に囲まれた住宅街の一角にありました。この家に30代のご夫妻と4歳の娘さんが暮らしています。愛娘Hちゃんが生まれ、物件探しを始めた当初は新築マンションや戸建て住居も検討していたとか。気になる物件をみつけては内見しに行ったものの、「どれもキレイで素敵でしたが、個性がないと感じられて。自分達が住んでいるイメージが湧かなかったんです」
次第に「まるごと自分達が心地よいと感じる家づくりをしたい」と考え始め、中古物件のリノベーションを決意。まずは「自分達がどんな家に住みたいのか」自分達の好きなテイストを確認し、互いの意識合わせをすることからはじめたそう。Webや雑誌などさまざまな資料に目を通す中で、互いに気になった事例に付箋を貼っていったところ、某専門誌の中で付箋の数がいちばん多かったhowzlifeに相談することに。早速、恵比寿のショールームを訪ね、「ここなら!」とK夫妻は思ったそう。
聞けば、夫のTさんとは高校時代からのお付き合い。もともと気が合う上に、好みも似ているというおふたり。とはいえ長く住み続ける家ということもあり、微妙な食い違いでも避けたいと「Pinterestでお気に入りのイメージ画像をストックして互いの理想のイメージを擦り合わせることも」。その甲斐あって、初回の打ち合わせの段階で具体的な青写真がすでに出来上がっていた様子。「担当デザイナーの林さんが提案してくれたデザインスケッチは思い描いていたイメージ通りでしたね」
「夫婦それぞれこだわりたい場所が違ったので、幸いなことに衝突しなくてすんだのかもしれません」とK夫妻は笑います。早速、ゾーンごとの「お気に入りポイント」を案内してもらいました。
「広い空間をより広く」するより「狭い空間を心持ち広く」したい
◆エントランス
前の家では玄関が狭くて、誰かが靴の脱着が終わるまで、他の人が立ったまま待ちんぼうになってしまう状態でした。あの渋滞を解消したかったんです」と話すのは夫のTさん。
新しい家の玄関は大人三人並んで入室しても余裕を感じられるような作りにしたい。そんな具体的なイメージが浮かんだのは、「玄関は家の顔としてゆとりをもたせいたい」という思いからだったよう。玄関は訪れる人の目にはじめてふれる場所です。この家に一歩足を踏み入れた時に感じた、「広くゆったりして余裕がある」という第一印象は、そのままK夫妻が放つ雰囲気にも通じます。
限られたスペースをなるべく広く活用するため、もともと洋室にあったクローゼット部分をつぶし、スペースを確保。また「廊下は狭くてもいい」と判断し、斜めに間仕切り、玄関の床部分の表面積を増長。アイアンと木の組み合わせで造作した可動棚には手入れの行き届いた靴が並びます。
「靴が好きで時間を見つけては自分の靴はもちろん、家族の靴も磨いていますね」と夫のTさん。
グレーのガンメタルタイルの床にさりげなく置かれたのはTさん愛用のスツール。
シューズインクローゼットに扉がないのはやはり靴への愛情からでした。
シーリングライトに照らされるお気に入りの靴。ダウンライトの場合、天井へライトを埋め込む必要があり、天井からの高さを10㎝程犠牲にしなければなりません。天井が低くなるのを避け、天井すれすれの位置にシーリングライトを取り付けることで、奥行き感がより担保されています。
「掃除のしやすさの観点で床置きしたくなかったので、傘立ては床置きにせず、シューズインクローゼットに傘フックを取り付けてもらいました」
壁面のピクチャーレールなど、さりげない細部に主の個性が光ります。
玄関を背に立つと正面には3つの黒い扉が。それぞれ、主寝室、子ども部屋、ウォークインクローゼットの扉なのですが、ここで注目したいのが黒扉なのに重すぎない点。マットな表情に仕上げ、雰囲気を和らげるだけでなく、室内窓の採光効果がポイント。「リノベするなら、室内窓はぜひ取り入れたかった」と妻のEさん。
◆ウォークインクローゼット
憧れの室内窓は「本当はアイアン枠が希望」でしたが、予算を鑑みて木枠に変更。開閉式タイプの窓を選択したのはクローゼット内の換気をよくするため。
クローゼット内のポールの位置や高さ、天井の色などは担当デザイナーから提案される色や素材をひとつひとつ納得いくまで自分達で吟味したといいます。シーズン毎ではなく、家族構成毎でゾーニング。シャツをかけても下に収納棚が置けるくらいたっぷりとしたスペースを確保。クローゼットにしては広いと感じられるのは「ここで着替えができるように」との設計から。「もともと広いスペースを心持ち広げるよりも、狭い空間を少しでも広くした方が心地よく暮らせると思ったのです」妻のEさんがふと漏らした何気ない一言でしたが、実はコレ、この家全体に漂う、清らかな印象を読み解くための大事なキーワード。整然とした雰囲気の中に、どこか余白スペースが残されているといいましょうか。理路整然とした「秩序感」は場合によっては緊張感やおしつけがましさを強いるものですが、それがまったくない。たっぷりとした余裕さえ感じさせるのです。
◆リビング&ダイニング
デザインスケッチのイメージを再現したお気に入りのリビング。躯体表しの天井、クリア塗装を施した無垢のフローリング、ワークススペース。いずれも素材から色調まで毎週ショールームに出掛け、ひとつひとつ素材の質感から色調まで楽しみながら選んだというだけあって「ここにいる時間がいちばん長い」とか。それまで愛用していたダイ二ングテーブルを新居でも使いたいと予め希望を伝えることで部屋全体の色味や質感のバランス調整がスムーズになったといいます。
部屋の一角に設けたワークスペースの壁面はEさんのアイデアでマグネット塗装にし、メモを直貼りできるように。「リビングで勉強するのがいまの流行り」らしく、将来はHちゃんの勉強机として活用することを前提に、現在はEさんが資格取得の勉強のために活用している模様。
壁面には可動式の本棚兼飾り棚。とはいえ、「見せる収納が苦手」という理由から極力物は置かない主義。本の背表紙が並ぶのは美しくないので全てファイルボックスに入れて「見せない収納」を徹底。
「掃除がしやすい」ことはEさんにとって最優先事項です。開閉式の収納扉を全て「上吊り」タイプにしたのは、足元の桟にたまる埃の掃除が大変なので桟のない扉にしたいという発想から。デザイナーの林さんもこの着眼点には目からウロコだったそうです。これは真似したいと思う人、きっと多いはず!
お見せできずに残念ですが、扉に隠れた収納棚の内側は見事にきっちり整理整頓されており、さらに空きスペースが随所に残されていました。
「デザイナーの林さんに、前に住んでいた家に来てもらい、所有物の容量を見てもらったんです」新しい家で収納可能な容量を確かめた上で、新たに増えるであろう物のスペースも確保し、手放す物を見極めたそう。闇雲に断捨離をするのではなく、未来のために余裕をつくる。これは見習いたいと思いました。
◆キッチン
壁面のブルーが程よくアクセントになっているキッチン。最初は白で想定していた壁を最終段階でブルーに変更したのは「キッチンなら遊び心をいれてもいいかな」と思ったから。「ちょっと冒険してアクセントを取り入れたい」という気持ちと「やっぱり無難に飽きの来ないベーシックなものを」という気持ちが揺れる間で、ここは前者を選択。
青の色調は過去の施行事例で気に入ったものを伝えて、塗料をミックスしたバリエーションを提案してもらい、写真と見比べながら最終決定を。床はグレーのガンメタルタイル。グレーとブルーのコンビネーションによりシックで洗練された印象に。
◆子ども部屋
愛娘Hちゃんのプライベートルーム。玩具や絵の具など散らかしざかりのはずなのに、すっきり片づいています。新しい家に越してきてから「おもちゃを置く場所を決め、新しいものがそこから溢れたら何かを手放す」という習慣が身についたというHちゃん。扉に室内窓を採用したのは、たとえ部屋に籠もっていても娘の「気配を感じたい」という親心から。
壁はクロス張り。床はフロア直貼り。欲をいえば、壁は白塗りに、床はリビングと同じ無垢のフローリングにしたかったそうですが、遊びたい、汚したい盛りの愛娘が気兼ねなく伸び伸び遊べるように、との親心から無垢素材と塗装は断念。
◆主寝室
シングルとダブルのベッドを並べたシンプルな寝室。清潔感が漂う白とアクセントクロスの茶がとても洗練された印象。「デザイナーの林さんの提案で枕元に電気の調光スイッチをつけたのは大正解でした」とEさん。娘さんを寝かしつけの際にわざわざ入口の横にあるスイッチまで行かずにすみ、重宝しているそう。壁側にはのちのち液晶テレビをつけたいと設置用の下地板が組み込み済み。ベッドから壁面までの距離感はやはりここも「狭いところを心持ち広く」を意識したそう。
◆サニタリールーム
インディゴブルー、グレー、白、茶でコーディネートされたシックなトイレ。最初はこちらの壁も白で想定していたのをキッチン同様、ブルーに変更。手洗いをつけたいというEさんの希望で洗面ボウルを覆う壁面の一部にタイルを。掃除用具などが視界に入らないように目隠し用の棚を造作。
◆洗面所&バスルーム
ここは特筆すべきポイントがたくさんあったゾーン。
その1)洗面所の収納棚の向き。
→洗面台に立った時、タオルや歯ブラシなどを手に取りやすいからという観点で向きを変更した収納棚。K夫妻が向きを変えるメリットを感じていたのは目隠し効果。向きを変えれば他の部屋から生活用品が目に入らず、すっきりとした印象を重視したとのこと。
その2)「洗濯物畳み台」
→洗濯機と対面に位置する可動式棚に「畳み台は必要ですよね?」と林さんに確認され「それまで洗濯物はリビングで畳んでいたのでピンとこなかった」とEさんは笑います。半信半疑で導入したところ、これが大活躍。「生活動線を考えて提案してくれたんだといまでは感謝しています」
その3)既製品をカスタマイズしたバスルーム
→オプションをすべてカットし、最上級のバスタブを担保したいとTさんがショールームで交渉。「掃除のしやすさ」を重視してミラーや収納用品などの付随品はすべてマグネットで付着できるタイプのものを後付け。当初の提案では1616のサイズを提案されていたバスルームでしたが、やはり心持ち広くすることを選択し1618サイズに。ここでも先述の法則が活かされていました。
◆リノベーションを終えて
「思った以上にあれこれ決め事が多いので、夫婦間の共通認識を確かめ合って、自分達の希望を最初に全部伝えたら、あとはプロに任せるのがお勧めです。実際に暮らしてみて、気づいたことは無垢板が思った以上に伸縮すること。こうした変化による味わいを愛でるのがリノベの楽しみなのでしょうね」(Tさん)
「自分達の発想にはなかった洗濯物畳み台やベッドルームの調光スイッチなど生活動線を考えて提案してもらえたのがとてもよかったです」(Eさん)
(◎写真 花井智子 ◎ライター 砂塚美穂)