ODEN GOTEN|暮らしながら、自分達で作りあげるおでんの似合う家。
2019/02/03
ODEN GOTEN
暮らしながら、自分達で作りあげるおでんの似合う家。◆古民家風わが家で楽しむ、居酒屋ごっこ。
“眺望良好の高台に立地した一戸建て”。まるで不動産の販売図面でよく見かけるキャッチフレーズをそのまま口ずさみたくなるような佇まい。それがN邸の外観から受けた第一印象でした。私達を迎えてくれたのは7カ月になったばかりの愛娘HちゃんとN夫妻。
20代と30代。共に平成育ちのお洒落な二人から思いがけず飛び出したのは「古民家風というか、昭和っぽい感じにしたかった」。
きっかけはマンションの更新と妊娠発覚のタイミングが重なり、一気に高まった引っ越し欲。昔から戸建に住みたいという希望は漠然とはあったものの、新築物件を探すか、中古リノベにするか、天秤にかけて迷った日々もあったそう。なぜなら「中古物件は経年による老朽化が心配だったのと、物件探しが面倒そうだった」から。
「その点、howzlifeは物件をたくさん提案してくれ、内見にもフットワーク軽く何度も付き添ってくれたので助かりました」と振り返る、夫のTさん。数ある物件の中で決め手となったのは「築47年という年数が経っているのに、他の中古物件と比べてもきれいで頑丈という感じがして。とても大事に使われていたことが伝わってきたので」。妻のSさんの口ぶりからは、この家に対する愛着がにじみます。
一方、Tさんの決め手は日当たりのよさでした。
「庭に植えてあった、みかんの木やレモンの木にたくさん実がなるので料理に使ったり、ジャムにしたりすることもある」とか。たったこれだけのやりとりだけでも、しあわせな暮らしぶりがだだ漏れです。
それまで週末は外に飲みに行くことが多かったふたりも、この家に越してきてからは断然、家呑み派に転向。「この家に見合う料理を作りたくて、これまで買ったこともない調味料を買い揃えたりして」とはにかむ妻に、「この家にいちばん似合う料理はおでん!」と言い出す、夫のTさん。
「カウンターキッチンを作るのが憧れでした。キンミヤを買ってきて、あえて家でホッピーを飲むとかやってみたかった」聞けば、おでんや出し巻き卵など大皿料理を囲み、居酒屋風晩酌を楽しむ夜は、メニューを手書きしてきっちり「おしながき」まで用意するのだとか!
◆暮らしながら、自分達で作っていきたい。
二階建ての戸建てをリノベーションするには決定事項もたくさんあるし、毎日が取捨選択の繰り返しだったはず。どんな青写真を思い描き、デザイナーにどう思いを伝えたのか。やはり、気になるところです。
「こうしたいという希望がありすぎたこともあって、最初に作りこみすぎず、後から自分達で変えられたり、工夫できたりすることが理想でした」。夫妻の共通した思いは「暮らしながら、自分達で作りあげていきたい」ということ。
結果、すべての場所が「こうしたらどう?」「いいね!」とその場その場で交わされた、ひらめきの積み重ね、だとも。この日は「引っ越してまだ間もないこともあって、手つかずで非公開希望の部屋もありますが」といいながら一部屋一部屋、丁寧に仲睦まじく案内してくださいました。
では早速、ゾーンごとに込められたおふたりの思いを見ていきましょう。
(1階)
◆玄関&階段
入室して、まず目に留まるのがハニカムデザインのモザイクタイル。「広い分、何もないのは味気ないと思い、タイルを敷いたら可愛いのではとデザイナーの南部さんに伝えたところ、出来あがった」造作です。リズムカルな白の六角形を縁取る、ゴールドのほどよいアクセントにディレクションのセンスが光ります。
リビングへと通じる扉横、壁面にかかる鏡は後からふたりで取り付けた既製品。
六角形の幾何学的連鎖は特に意識したわけではなく、「いいな」と感じた形がたまたま合致しただけ、とのこと。
壁面は靴をしまいこまずに見せる収納を希望し、可動式の収納棚をオーダー。
コート掛けの部分はあとからSさんが作り足したそうで、プロはだしのDIY術に驚くばかりです。「後から自分達が工夫できるよう、余白を残してもらって正解でした」
玄関の扉や窓など、もとからあったパーツをそのまま残した箇所も。
どれも見事に「古民家風」の新たな造作と馴染んでいるのが、この家の個性といえそう。
ここで、特筆すべきは階段です。
「もともとは玄関からリビングを通らず、そのまま二階へ上がれる作りだったのですが、この子(愛娘のHちゃん)が思春期になって、学校から帰ってきたとき、顔も見せずに二階へあがるようなことになるのは嫌だったので」動線を変えてもらった。
7カ月になったばかりのHちゃんの将来をいまからあれこれ想像する、おふたりの様子から「可愛くて、可愛くて仕方ない」ことが本当によく伝わってきた場面でした。
◆洗面所&脱衣所&バスルーム
洗面所でひと際存在感を放つ鏡はドイツの家具メーカーKAREで見つけたお気に入り。「これも自分達で作りつけたので落ちてこないか心配」と笑い合う、おふたり。
洗面台、洗面器、タオル掛け、水栓に至るまでイメージ通りの理想形に近づけるため、カタログを吟味して選んだそう。決断のタイムリミットが差し迫り、床のフロアタイルを無作為に選んだら「これも六角形だった」と後から気づいたとか。
「結果的にリンクしてよかった」と笑いますが、Tさんの無意識はどうやらハニカムデザインがお好きのようです。
◆水回り(トイレ)
「こんな感じにしたい」とTさんが具体的なサンプルを提示し、取り付けてもらった自慢の鍵。真鍮のトイレットペーパーホルダーはhowzlifeのショールームで「めっちゃ可愛い!」とSさんが一目惚れし、同じものが採用されました。これを起点にタオルかけ、スイッチプレート、ドアノブなど他所の細部で真鍮が取り入れられ、さり気なくリンクしていますが、これも無意識のしわざでしょうか。
◆キッチン&ダイニングテーブル
Sさんの「いちばんお気に入りの場所」であるキッチン&ダイニング。デザイナーに伝えた要望は「料理をする時に子どもの様子が見渡せること」。
使い勝手の面で若干、アイランドキッチンに魅かれた時期もあったけれど、最終的にはリビングに面する水まわりと調理場を分ける二面配置を選択。実際に使い始めてみれば、広い作業スペースを確保できたことで「友達を招いた時、大人数でキッチンに立てたり、買い物してきた食材をばーっと並べるのに便利だったり」と意外な発見があったと、大変満足そうでした。
出窓を利用した収納棚は窓枠に沿って間仕切りだけを造作してもらい、仕上げは夫妻のDIY術によるもの。カウンター上のワインホルダーなどもふたりのお手製です。
「最低限の枠組みを作ってもらって、残りはホームセンターなどで調達しました」
全てを作りこまず、遊びを残すことで、手作りできる楽しみが得られるばかりでなく、コスト削減も叶い、うれしい一石二鳥となったよう。
カタログから選んだという独特の風合いのグリーンのタイルにも「新しいものより、どこか古い感じが好き。ヴィンテージというか」というSさんの審美眼が光ります。
「パントリーはデザイナーの南部さんからのご提案でしたが、結果的にあってよかった」視界から隠したいものを、ちょうどいい具合に隠せるので重宝しているとか。
◆リビング 小上がり&吹き抜け
天井吹き抜けの小上がり。頭上で旋回するシーリングファン。何とも心地よい抜け感を適度に間仕切る梁が独特の存在感を放っています。ここはもともと、襖で仕切られた床の間つきの和室だった空間。構造上、梁を外すわけにはいかず、「隠すか見せるか」の二択のみ。
「コスト面から見せるほうを選んだのですが、梁に刻まれた、ところどころにある傷も、何か愛おしく感じられて。全体的にもこの梁が独特の味わいを醸してくれているので、かえってよかった」。
吹き抜けを南側にすると二階の子ども部屋が確保できないという、こちらも構造上の理由から北側を選んだものの、「この薄暗い感じも気に入っている」ので結果オーライ。
「小上がりに関しては腰かけてテレビが見られる高さと、下段を大容量の収納として活用できるようにしてはとデザイナーの南部さんから提案があり、これはすごくありがたかった。私達からお願いしたのは、子どもの寝かしつけができるように畳を取り入れたいということ。子どもの寝顔を見ながら親がごはんを食べられることもいいですし、時には家族三人で川の字で寝ころぶことも」。ちなみに、この畳部分は取り外すことも可能。
リビングに面した大きな窓はゆくゆく庭にデッキチェアを置きたいというご希望から、全開にしたときの解放感を叶えるため、スライド開閉式に。夏に、ここでビールを飲んだら最高でしょうね!
最も悩んだのが、壁紙と床。全体の雰囲気を左右することもあり、何週間も迷った挙句、
「主張の強くない、無難な」選択をしたけれど「この家の薄暗い感じにも程よく馴染んで気に入っています」
◆サンルーム
この家ならではの日当たりのよさを存分に堪能できる場所。
「いまはまだ寒いので、現状はタイルを敷きつめることくらいしかできていませんが、春になったら植物を植えたりして、もっと活用したいと思っています」
「ああしたい」「こうしたい」とまだまだ手作りできる余白があることが、おふたりにとって週末の何よりの楽しみになっているご様子。
(2階)
◆主寝室/子ども部屋/ゲストルーム
◆ワークスペース
まだまだ開拓途上との理由から、この日は残念ながら「非公開希望」の2階部分。唯一、撮影を許可していただいたワークスペースは室内干しで活用するにも充分な広さです。
◆リノベーションを終えて
「僕らは面倒な客だったと思いますよ」とTさんが笑いながら、当時を振り返ります。
「間取りのディレクションを除いて、ほぼ自分達の好きなようにやらせてもらったので」
とにかく、ふたりでネットや雑誌、ときには店舗に出向いたりして「滅茶苦茶調べまくった」ため、コスト的に無理だというボーダーラインもだんだん見当がつけられるようになっていたそう。でも、
「ちゅうちょせずに、全ての希望を担当の南部さんに伝えました。その都度、『ちょっと難しいので、こうしたらどうでしょうか』という提案をくれて、最後まで僕らの尽きせぬ要求に応えてくれました。やりたいことを伝えれば、それを踏まえた専門的なレスポンスをしてくれたことが、心強かったです」(Tさん)
「漠然と新しすぎない古い感じが好き、というだけでテーマとか決めずに好きなものをひとつずつ寄せ集めた、統一感のない、ごちゃごちゃかんが結構気に入っています。私達の志向やコストとの兼ね合いを考えて『ここはご自分達でも造れますね』と遊びを残してくれたのもよかったです」(Sさん)
ヴィンテージ感を重視すると「コストの面で折り合いをつける工夫が必要になる」という話をよく聞きます。今回のN夫妻のように自分達で作る余白を残すことで、妥協のないコストダウンが可能になる場合も。ここから学べるヒントはたくさんありそうです。
(◎写真 花井智子 ◎ライター 砂塚美穂)