部屋の中に箱
北側にある玄関を入ると、部屋の南側まで一気に見渡せる開放感!
K様邸を訪れた人は、みんなまず玄関でびっくりするのだとか。
K様一家は、ご夫婦と生まれたばかりの男の子、そしてボストンテリアのワンちゃんがいる3人+1匹のご家族。奥様の妊娠を機に物件購入を検討され、ご主人が閉塞感のある空間が苦手ということで、ルーフバルコニーつきのマンションを中心に内見。
東側と南側にそれぞれルーフバルコニーのある約80㎡のこちらの物件は、内見時にひと目で「ここだ!」と確信したそう。分かります! 開放感ハンパないですもの!
起源はイタリアに
ご主人が建築設計のお仕事をされていることから、ベースの設計はご主人みずから手がけました。
設計中は、この家のプランと、仕事で担当しているプロジェクトのプランを同時に考えていたというからすごい!ですよね。
ご主人がこの家に投影したいと考えたイメージは、「箱の中に箱がある」というもの。シナ合板を使い、空間の中に「木箱」があるようなイメージを実現したかったのだとか。
ちょっと不思議なイメージだったので(失礼!)、その発想はどこから来たのかとお尋ねすると、“起源”は学生時代に行かれた建築旅行にありました。
白い石灰でできたイタリアの集落を訪れたときに、屋外なのに室内のよう、室内なのに屋外のようという、外と中があいまいな建築物がとても印象に残ったのだそう。
「LDKは中庭のような立ち位置で、箱のような個室(=室内)からみんなの共有スペースであるLDK(=屋外)に出て行く、というイメージを投影しました」とご主人。
「箱」の部分の壁面はシナ合板仕上げ。
「木材だけど工業製品なので、ほのぼのした感じにならず、シュッとして見えるので選びました。プランナーの重野さんには、割り付けで苦労をかけてしまったのですが……」とご主人。恐縮です!
そうそう、K様宅に入った瞬間、植物がいっぱいあるなぁ~と思ったのです。
植物を置いているのもリビングを屋外のようなイメージにするためだったのですね。
あ、お尻だけですがワンちゃんが初登場!
リビングの南側の窓際にはプロジェクター用のスクリーンを設置。
テレビはあまり見なくなって、これでNetflixの映画やドラマを楽しんでいるそう。
窓辺に植物やアジアの笠を吊るしているのも素敵です!
この窓はマンションでは珍しくフルオープンにできる折り戸式で、バルコニーが続いています。
LDKの床は、普通のフローリングだとありきたりかなと思ってバーチ材のパネルに。
屋外のような雰囲気を醸し出しながらも、畳のような雰囲気もあって気に入っているそう。
壁の塗装はなんと、ご夫婦によるDIY!作業当時、奥様は妊娠8カ月だったというから驚きです!
使った塗料は、奥様のご実家のリフォームで使用して気に入ったポーターズペイント。
明るい感じ、ナチュラルな感じにしたくて、オフホワイト風の「キュムラス」という色を選びました。
DIYで塗装したことはコストコントロールに役立ったとか。
正面の窓の先にも広々としたルーフバルコニーが広がっているので、リビングの開放感は抜群です。
フレームに入れて飾っているのは、鹿児島市の知的障害者支援センター「しょうぶ学園」の入所者さんたちによる「ヌイ・プロジェクト」の作品。力強いデザインがオフホワイトの壁に映えてとても印象的でした。
キッチンはレイアウトありきで
ダイニングキッチンはリビングとひと続きでありながら、こもれる感じもある居心地のいい場所になりました。
壁付けキッチンにこれまた壁付けのダイニングテーブルというレイアウトはご主人の実家と同じだそうで、調理中にテーブルを作業台としても使えるのが便利だとか。
「来客時は、テーブルを少し動かせば4人座れます」。
システムキッチンはサンワカンパニーのものをチョイス。
キッチンの位置は、改修前の状態から大きく移動させています。
間取りはほぼ、ご主人作成の図面どおりですが、そのとおりにできるかはキッチンを動かせるかがポイントだったため、現地調査のときは内心ドキドキしていたそう。
「SHUKEN Reさんに動かせると言ってもらい、ホッとしました」(笑)。
設計のプロであるご主人が弊社にリノベを依頼してくださったのは、弊社が「マンションリノベのプロ」と見込んでのこと。「SHUKEN Reさんはマンションリノベを長くやっている会社なので、安心して任せられました。僕も設計を仕事にしていますが、マンションの専門家ではないので分からないことも多かったんです。依頼するならマンションリノベのプロでないと、と考えていました」。
冷蔵庫側の壁面は、棚柱だけつけて使い勝手に合わせてカスタマイズして使っています。
シナ合板、タイル、ステンレス、バーチ材……と、たくさんの素材が同居する空間ですが、全体としてかっこよくまとまっているのがさすがです。
木箱の中は…
今度はシナ合板仕上げの「箱」の中を見せてもらいましょう。玄関を入ってすぐ右手にあるのが寝室です。
ベッドはすのこ式のものにして高さをおさえ、広さを感じられるようにしているそう。壁面につけた棚柱にはまだまだ棚板を追加できるので、今後、物が増えても安心です。
寝室の隣は将来の子ども部屋。今はゲストルーム兼収納として使っています。先ほどご主人がおっしゃっていた、「箱のような個室から、みんなの共有スペースであるLDKに出て行くというイメージ」というのが、この画像からよく分かりますね。
壁一面の収納棚には季節外の衣類や客用布団をしまっているそうで、ご主人が見つけてきた帆布をカーテンのように下げて目隠ししています。将来的には内部の棚板の一部を外して、この場所にお子様のデスクを置くことも考えているとか。
「箱の中」の最後は、洗面室&浴室。サンワカンパニーの洗面台に、インテリアショップで見つけた丸いミラーを合わせました。「棚板のシナ合板の色が映える空間にしたかったので、シンプルで使いやすそうだったこの洗面台を選びました」とご主人。既存のユニットバスがまだ使えそうだったため浴室は工事をしていません。
モルタル床の理由
改めまして、こちらは玄関を入るとすぐに登場するオープンな書斎スペースです。
プランニングは新型ウイルスの発生前だったため、在宅勤務用として考えたわけではなかったそうですが、はからずも在宅勤務に大いに活用できるスペースとなりました。
壁際のちょっと出っ張った部分は収納スペース。反対側はトイレになっています。
トイレは位置だけ移動して、設備は既存のままに。昔の日本の家のように、離れにトイレがあるようなイメージになって気に入っているそう。
ここで、書斎の床にご注目! 書斎の床をモルタル仕上げの土間にしたのは、靴を履いたまま玄関の外やルーフバルコニーに出て行けるようにするためなんだとか。
「仕事するときは気持ちを切り替えたいので、靴を履くようにしているんです。靴といってもサンダルですけど(笑)」。その感覚、分かる気がしますよね。
本棚にはご主人のお仕事がら、建築関係の本が多く並んでいます。コミック本は“映えない”ので上のほうに置いて、目立つ場所には絵になる洋書を。
本棚はほぼDIYで。棚柱だけ工事でつけて、棚板はホームセンターでご主人みずから買ってきたものです。
サイズの算出や搬入が大変だったそう!ここでも植物が空間に潤いを与えてくれています。
朝日がシナ合板を照らして
最後にリノベ後の暮らしについて伺うと、「住み心地はめちゃくちゃいいです」というありがたいお言葉を頂戴しました!「戸建て感があって窮屈な感じがないことや、部屋の中で、視線が遠くまで伸びるのがいいんです。妻から、早朝に子どもにミルクをあげているときに朝日が見えていいって言われたのがうれしかったですね。シナ合板の壁に朝日が当たって、すごくきれいだって」とご主人。
調光式の照明にしたこともあって、夜の雰囲気もとてもいいのだとか。「オレンジ色の光がおばあちゃんちみたいって、夫婦でよく話しているんです」。マンションの5階にもかかわらず、虫の鳴き声が聞こえることもあり、それも「おばあちゃんち」みたいなんだそう。
まだ小さなお子様も、ワンちゃんも、これからこの部屋でのびのび過ごせますね。
今後は、室内にもルーフバルコニーにももっと植物を増やして、ルーフバルコニーにはガーデンファニチャーも置きたいと考えているそう。次回おじゃましたときは、もっと外と中の境界がなくなっているはず!と確信したスタッフ一同でした。
お忙しい中、取材・撮影にご協力いただき、ありがとうございました。
取材・文/ライター志賀朝子