once in a lifetime
今回登場するお施主さまは、都内で自営業を営むAさま。ご自宅でお仕事をされていることから、ワークスペースを重視したリノベを計画されました。
以前のお住まいが築50年を越える築古マンションだったため、同じエリアで築浅物件を探し、以前より10㎡ほど広い築25年の中古マンションを手に入れました。
室内に案内されると、モダンの中にエキゾチックなアクセントが感じられる、大人なミックススタイルの空間が広がっていました!
濃淡のグレーで統一されたリビングダイニングは、間接照明の効果もあって落ちついた雰囲気。木の質感を生かした家具も存在感たっぷりです。
ダイニングテーブルと壁際のキャビネットは「CRASH GATE」。「新品なのですが、古い木材が使われていてヴィンテージ感があるんです。本物のヴィンテージ家具は素敵だけれど、今の暮らしに合わないこともあるので、私にはこの造りがちょうどいいんですよね」とAさま。
革張りのロッキングチェアは「ACME Furniture」。以前は2.5人掛けのソファをお持ちでしたが、使用頻度が低かったため、座り心地のいい1人掛けを探したとのこと。アームレストにさりげなく掛けたひざ掛けも同店のものです。
ルーバー扉つきのTVボードはタモ材で造作したオリジナル。「テレビはほとんどゲーム用なので、ボードも『プレイステーション5』がぴったり入るサイズで造っていただきました」
床は「朝日ウッドテック」の幅広のオーク材。繊細な織りが素敵なじゅうたんは、ウズベキスタンに旅行した際に購入したものとか。50年以上前に作られたシルク製で、薄くて軽く、なめらかな手触り。こんなふうに個性のあるアイテムをポイント使いするのがAさま流なんですね。
「基本的にはモダンが好きなのですが、家具や雑貨までモダンにしてしまうと男性的になりすぎるし、面白みもない気がして。旅先で見つけた雑貨などをプラスしてバランスを取っています」
住空間への並々ならぬセンスが感じられるAさま。以前お住まいだった築古マンションもプチリノベをしていたそうで、いわゆる“いまどきっぽい内装“ の新築マンションには興味がなく、中古リノベしか考えていなかったといいます。
「この物件も、リフォーム済みではない“ 現況引き渡し” なのが気に入りました。リフォーム済みだと価格も上がりますし、リノベで壊してしまうのがもったいないですから」
今回は2度目のリノベということもあり、「住み替えることは当分ないだろうから、やりたいことを思い切りやろう!」と考えてリノベに臨まれました。
「SHUKEN Reさんを見つけたのはリノベ会社をまとめて紹介するサイトです。そこで見たブルックリン風の事例が気になって、直接コンタクトを取りました。
他社と比較して決めた理由は、率直に言って工事金額です。お伝えした要望は同じなのに、設備機器の割引率などに違いがあったようで、200万円も差があったんですよ」
間取りプランのテーマになったのは、LDK・ワークスペース・寝室の3つの空間をどう配置するか。結局、もともと南側にあった個室を寝室+WIC にして、広いLDの中にワークスペースを設けるという案に落ちつきました。
開放感がありながら集中できるワークスペース
リビングとワークスペースを仕切るのは、腰壁と大きなガラスを組み合わせた室内窓。天井付近はあえてガラスを入れずに空間をつなげました。風が通るためエアコンの冷気・暖気も伝わりやすくなります。
ワークスペース内には大きなデスクとシェルフを造作。「ときどきお手伝いのスタッフに来てもらうことがあるので、デスクは2人並んで作業できるサイズにしました」
タモ材で造った壁一面のシェルフは圧巻!下段は引き戸つきの収納にして、こまごましたものを隠す収納にしています。引き戸の表面のデザインにもご注目を。
「仕事上、黄色っぽい光は避けたかったので、ここだけ照明を白っぽい昼白色にしています。反対にリビングはあたたかみのある電球色に。このあかりの色の違いがあったので、リビングとワークスペースをやんわりと分けることにしたんです」
デスクをリビング側に向けたのは、壁に向かって仕事するより、広い空間に視線を抜きたかったからとか。こんなふうにリビングが見えると、ついお休みしたくなりそうですが…
「オンとオフの切り替えは得意なほうなので、仕事中に気が散ることはないんですよね。ここまでやると決めたら作業に集中して、終わったらリビングに移動してゆっくり休みます」とAさま。やはり自営業ならではのお仕事スタイルをお持ちなんですね。
ダイニングにはアートのような窓を
ダイニングでスタッフの目を引いたのは、壁に掛けられた窓型のモニター。世界各地のさまざまな風景をサブスクで自由に選んでディスプレイできる「Atmoph Window」という製品なのだそう。
「この物件は角部屋ではないので、南側にしか窓がないんです。そこで窓のかわりに採り入れたのがこれ。ヨーロッパの街並みや大自然など、その日の気分で映すものを変えられるんですよ」
設置する際は壁面にニッチを作り、その中に配線をすべてまとめました。周囲にコード類が見えず、すっきりした窓のような印象を与えるのは、この工夫があったからこそ。
特に都市部では、眺めのいい窓を手に入れるのは至難の業ですよね。こんなアイテムがあれば窓としてもアートとしても楽しめて、暮らしにほどよい変化を与えてくれそうです。
ダイニングテーブル選びでこだわったのは、4人でゆったり座れるサイズ。Aさまにとって、お友達を招いてパーティをするのが楽しみなのだとか。「人がワイワイ集まれる家って、一人暮らしでは意外と貴重。ダイニングを広めにしたのは正解でした」
テーブル上の照明は「Tom Dixon」の「ビート ワイド ペンダントライト」。黄銅を塗装したモダンなデザインで、内側の細かな凹凸に光が美しく広がります。
「プランでいちばん悩んだのがキッチンのレイアウトでした。カウンターの角にあるパイプスペースが動かせなかったので、対面式にすると作業スペースが狭すぎて。そこで最初は廊下に沿って長いカウンターを設けるプランを検討したんです。
ただ、そうするとシンクの正面が洗面室の出入り口になるので、眺めに問題があるなぁ…と悩んでいたら、プランナーさんが『L型にもできますよ』と提案してくれたんです」
カウンターをL型にしたことで、作業スペースが足りない問題は解決。さらにリビングを眺めながら調理できることになりました。ここに収まる既製品の中に気に入るものがなかったため、キッチンはすべて造作に。カウンターは人造大理石で、シンクとの間に継ぎ目のない一体型。お手入れのしやすい形状です。
一人暮らしに3口コンロは不要と考えたAさまは、「リンナイ」で2口が縦に並ぶタイプを選び、さらに作業スペースを広げました。上面についたツマミや無骨なゴトクがおしゃれで、火力も強くて気に入っているそう。
ヘリンボーンのタイルは、このあとご紹介する洗面室のタイルの色違い。自然な色ムラを生かしたグレーがLDのインテリアになじんでいます。
ちなみにこちらが移動できなかったパイプスペース。そのまま柱として残し、前面を設備ニッチとして生かしました。黒い扉を開けるとインターホンなどの操作パネルが隠れています。
キッチンと玄関の間にも素敵なコーナーが。コンパクトなベンチとパイプが造りつけてあります。「お手本にしたのはアパレルの店舗。ゲストが来たとき、荷物や上着などをまとめてもらっています」 さりげなく置かれたフレームは、大好きなバンドThe Killersのもの。ラスベガス公演を観に行った際、大切に持ち帰ったポスターなのだとか。
「玄関でマストだったのはシューズクローゼットでした。以前のマンションにも玄関に大型収納があって、便利さを実感していたんです。靴から飲料のストック、リサイクルに出す雑誌まですっきり片づきます」
ベースに真鍮を使ったブラケットは「TOWARDS」で購入。シンプルな美しさながら、ほかでは見かけない新鮮なデザインです。
友達からの情報や宿泊体験をフル活用
Aさま宅でおしゃれなのはパブリックスペースだけではありません。プライベート空間もこの通り!
華やかさとくつろぎ感があいまって、まるでリゾートホテルのよう。ベッドヘッド側に採り入れたのは「WALPA」の輸入壁紙。トロピカルな南国の森がモチーフですが、色調はシックで落ちついた印象です。
「自分しか使わない部屋だから、インテリアで遊ぼうと思って選びました。ヒントにしたのは海外旅行で宿泊する民家。よくairbnbを利用するのですが、個性的な家が多くて面白いんですよ」
ベッドサイドにはプロジェクターを常設。もともとベッドの向かい側には腰窓がありましたが、お隣の窓とバッティングするため、あえて壁を造って塞ぎました。Aさまはそこにロール式のスクリーンを設置し、使うときだけ引き下ろして映画などを楽しんでいるそう。
寝室の入り口にはWICを設けました。片側はポールをつけてワードローブをまとめて収納。反対側には手持ちの家具を置いてバッグや小物を整理しています。「奥の姿見が隠れないように、当初のプランよりもスペース全体の幅を広げました。おかげで出入りも着替えもラクにできます」
洗面室にも見どころがいっぱい。タイル壁と照明、ミラー、カウンターなどの絶妙なバランスは、ネットで見つけたインテリア画像をスタッフと共有して実現しました。トイレや脱衣室とスペースをまとめることで、動きやすい広さも獲得しています。
キッチンとお揃いのヘリンボーンのタイルは「名古屋モザイク」、真鍮のブラケットはネットショップでセレクト。
ミラーボックスと人造大理石の洗面カウンターはイメージに合わせて造作しました。真鍮のタオルバーは「上手工作所」のもの。トイレットペーパーホルダーも同店で選びました。
「内装でいちばんこだわったのが洗面室なんです。画像でイメージを伝えたおかげで、想像通りの仕上がりになりました」とAさま。もちろんゲストにも好評だそうです。
「以前から友人にインテリア好きが多くて、内装や家具などの情報には恵まれているんです。今回のリノベではそれを生かしながら、自分がやりたかったことをすべてやってみた感じ。私の好みをよく知っている友達には、『Aらしい家になったね』と言われます」
在宅でお仕事をされていて、プライベート時間もおうちで過ごすのが好きというAさまにとって、住まいは何よりも大切な場所。お話の中でぽろりとおっしゃっていた「一生に一度くらい、自分の好きな家に住みたいじゃないですか」という言葉からも、住まいに対するAさまの思いが伝わってきました。
お忙しい中、取材・撮影にご協力いただき、ありがとうございました。
取材・文/ライター後藤由里子
撮影/カメラマン清永洋