Nordic Style
ヨーロッパの街並みを切り取って持って来たような、雰囲気満点のテラスハウス。その一角に、この日訪ねたAさまファミリーのお住まいがあります。
専用庭もある2フロアのつくりで、室内は戸建てのような感覚。LDKと水回りのある1階の中心には、スタイリッシュなのにあたたかみも感じるオープンキッチンがありました♪
Aさまファミリーは、ご夫妻と高校生の娘さん、小学生の息子さんの4人家族です。ご主人の仕事の関係で20年近くドイツやデンマークなどに赴任されていましたが、コロナの影響で2020年の年末に突然帰国が決まったのだとか。
海外育ちのお子さんたちにとって、日本で暮らすのは初めてのこと。「少しでもなじみのある場所で新生活をスタートさせたい」と、日本での住まいは奥さまのご実家近くのエリア限定で探しました。住まい探しの猶予は2週間ほどしかなく、物件の内見は現地からFaceTime(ビデオ通話)でおこなったとか。
分断されていた部屋をひと続きのLDKに
「空き待ち」をする人がいるほど人気の物件をタイミングよく購入することができましたが、帰国後に実際に見てみると「思ったより天井が低くて、内装の傷みも進んでいたんです」とご主人。そんな様子が想像できないほど素敵に生まれ変わったお住まいを、LDKから順に見せていただきましょう!
キッチンの向かい側にはリビングがあり、正面の開口部の奥はダイニング兼ご主人のワークスペースです。現在のリビングの場所には以前は和室があり、キッチンは右手のもっと奥まったところにありました。
LD・キッチン・和室と分断されていた間取りを、ひと続きの広い空間にしたい――。そんなAさま夫妻の希望を反映してできたのが、キッチンを中心にL字形につながるLDKです。
キッチンは、住まいの中で奥さまがいちばん気に入っているスペース。「ピンタレストで見て以来、壁にはサブウェイタイルを使って、黒いアイアンバーにツール類をかけようって決めていました(笑)」
背面側のガスコンロとは別に、アイランドキッチンに小さなIHコンロをつけたのも奥さまのこだわりです。
「炒めたり焼いたりするのにはガスコンロがよかったんですが、海外生活で使い慣れていたIHも、お湯がすぐに沸くので欲しかったんです。今はこのアイランドキッチンで食事をしているので、お鍋などを温めながら食べられるのも気に入っています」と奥さま。チーズフォンデュを楽しんだこともあるとか。楽しそうですね~♪
造作した吊り戸棚は、扉を引き戸式にしてちょっぴり“昭和テイスト”に。しまっているものが丸見えにならず、圧迫感もないように、チェッカーガラスを採用したのがポイントです。
先ほどチラリと見えたキッチン奥のダイニング兼ワークスペースは、シックなブルーの3枚引き戸で締め切ることもできます。ガラス入りの扉を採用したので、閉じても南側の窓からの光がキッチンにたっぷり届きます。
日本ではほぼ在宅勤務になるご主人のために、最初からプランに盛り込んでいたワークスペース。ご主人は音楽鑑賞が趣味で、デスク右手の壁にオーディオ機器用の棚を、窓側の壁にはCD用の棚をぴったりサイズで造作しました。
「デスクは当初、奥行き80センチで造作してもらう予定だったんです。でも、プランナーさんから助言があり、10センチ短くしたら大正解。後ろのダイニング家具とぶつかることもなく、リクライニングも気兼ねなくできます」とご主人。
一時は小上がりをつくることも検討したそうですが、「意外と使用頻度は低い」というご友人の声を聞き、コーナー窓に合わせてベンチを造り付けることに。
全部椅子にするより省スペースで、詰めればたくさん座れるフレキシブルさも気に入っています。現在このスペースは、お子さんたちの勉強用として使っているとか。
お仕事中のご主人をパチリ。音を遮断できるので、オンライン会議のときなどにはキッチンとの間に設けた引き戸が活躍します。
こちらはキッチン正面のリビングスペースです。家具の多くは、海外の住まいからコンテナで持ち帰ったもの。長年愛用している家具が似合う空間にしたいということも、優先順位の高い希望だったとか。
保管中の家具を思い浮かべて打ち合わせ
「帰国してリノベ工事が完了するまでの数カ月間、私と子どもたちは私の実家に、夫は勤め先の独身寮に仮住まいをして、現地から持ち帰った家具などは引っ越し業者さんの倉庫で預かってもらっていたんです。リノベのプランニング中、保管中の家具のサイズや色を聞かれる場面が多々あって、記憶だけを頼りになんとか対応しました(笑)」と奥さま。
いざ家具を運び込んでみるまでドキドキだったといいますが、奥さまの記憶力はばっちり! サイズも色味も見事に空間にマッチしていますね。フローリングは家具と同じチーク材を選びました。
本をたくさんお持ちということで、プランナーが提案したのがリビングの天井際に設置した本棚です。文庫本のサイズに合わせた無駄のないデザインで、収納力は抜群。
文庫本は海外赴任前に日本で購入したものが多く、約20年の海外生活でも常に一緒だったとか。再び日本でこんなにぴったりの“居場所”を得て、本たちが喜んでいるように見えました♪
こちらはLDKの出入り口のドアです。古い建物や部材が身近だったヨーロッパ生活の影響で、アンティークテイストを取り入れたいと思っていたというAさま夫妻。ここには奥さまこだわりのバーンドア(納屋用の引き戸)を採用しました。
壁に用いたのは上海の古い建物を解体して出たレンガ。「まさにイメージ通り!というレンガをプランナーさんが見つけてくれたんです。キッチンに立ってこの壁を眺めていると、自然に笑みがこぼれてしまいます」と奥さま。
「1日に何回も開け閉めして、常に視界にも入ってくるドアはすごく大事だなって思っていて、ドアはちょっとこだわりたいと思っていました。レールがむき出しのバーンドアを、レンガの壁に取り付けるのはむずかしかったようなのですが、工事担当のかたが苦労して実現してくれました」
アンティークレンガの壁の先には洗面室と浴室があります。以前は奥まったこのスペースがキッチンで、手前側に移動したことでひと続きの開放的なLDKが実現。
造作の洗面台は、朝の身支度タイムに2人並んで使えるようにと幅を広めに。タオルと下着の収納用としてトールキャビネットも設けました。
水栓とボウルはプランナーのおすすめのものを採用。水栓は汚れにくい壁出しタイプです。水がかりの部分のヘリンボーンに貼ったタイルがかわいいですね!
こちらは玄関ホールです。LDKのバーンドアは玄関側から見ても存在感たっぷり。正面のトイレのドアも、アンティーク風のデザインと質感が素敵です。
1階のトイレは、手洗いカウンターまわりのタイルにこだわり、シンプルな北欧風にまとめました。便器はTOTOの製品です。
ここからは、玄関ホールから続く階段を上がって2階へ移動。2階のトイレは南欧風を意識したそうで、壁にぽってりとしたタイルを、床にテラコッタ風のフロアタイルを使いました。
田舎家風の手洗いボウルも奥さまのお気に入り。トイレが2つある場合は、Aさま邸のようにインテリアのイメージに変化をつけると楽しいですね。
こちらはご夫妻の寝室です。天井裏にスペースがあったため、天井板を撤去して階段つきのロフトを設置しました。当初は奥さまのワークスペースにすることも想定していましたが、家事などで1階とここを往復するのが大変なことから、収納スペースとして活用中。大型のスーツケースなどがラクラク置ける広さがあります。
ロフトの下にあたる部分は、愛用の素敵な北欧家具を生かしたオープンクローゼットに。左手の奥まった部分はL字形にハンガーパイプを設置しています。
2人のお子さんの子ども部屋もチラッとのぞかせてもらいました! こちらは高校生の娘さんの部屋です。内装材はすべて娘さん自身がプランナーと相談しながら決めたのだとか。天井と壁でクロスを貼り分けるなんて、センスがよすぎてびっくりです!
天井高を上げて造作したロフトは、下がデスクとクローゼット、上はアートが好きでご自身も絵を描く娘さんのアトリエコーナーになっています。
同じく造作のロフトがある小学生の息子さんの部屋。ロフトを部分的に黒く塗装したのがかっこいいですね。特大サイズのフットボールテーブルは、海外の住まいから持ち帰ったものです。
リラックスできる住まいが完成!
2021年の秋にリノベが完了して、こちらでの暮らしは1年半ほどになりました。住み心地をうかがうと、「大満足です」とおっしゃってくださった奥さま。
「デザインや色が希望どおりの北欧風で、これまで滞在した国々の田舎の家の雰囲気もあって、とてもリラックスして過ごせます」と、ご主人からもありがたいご感想をいただきました。
さらに奥さまは、「(当社プランナーの)南部さんがなんでも聞いてくれて、受け止めてくれたことがありがたかったです。結構言いたい放題だったのですが(笑)、それをどうしたら実現できるかを毎回考えてくださいました」
依頼するリノベ会社は、リノベーションのポータルサイトから紹介を受けた4社を検討したというAさま夫妻。「いかにも“建築士です”という年配の男性が対応してくれたところもあったのですが、あまり話しやすい雰囲気ではなかったんです」
「フルリノベーションの場合、家じゅうのすべてについて1つ1つ相談して決めていく必要があるので、遠慮したり気をつかったりするような人ではなく、“一緒につくっていく”という感覚で、気軽にやりとりできる南部さんのような女性プランナーさんが自分たちには合っていたんだと思います」
そして、「設計だけでなく施工の面でもSHUKEN Reさんにお願いしてよかったです」と奥さま。
「工事内容やゴミ処理などの問題で、過去にトラブルが起きたこともあったようなのですが、長く住んでいる近所のかたから、『こんなにきれいに工事を進めた業者さんはほかにありません!』と褒めていただいたんです」
「私たちの“手がら”ではないのに(笑)、私たちがいい印象を持ってもらえて、ご近所付き合いを最初からスムーズ始めることができました」
お褒めの言葉をたくさんいただき、取材スタッフもうれしい気分でいっぱいに(Aさま、ありがとうございました!)
20年にも及んだ海外生活はずっと借家暮らしで、「自分たちの家を持ちたい」というのはAさま夫妻の密かな夢だったそう。初めて日本で暮らすお子さんたちは心細さもあったと思いますが、ご夫妻の夢を詰め込んだ住まいで、楽しく快適に過ごしていただきたいと思います。
お忙しい中、取材・撮影にご協力いただき、ありがとうございました。
取材・文/ライター志賀朝子
撮影/カメラマン清永洋