Walls

この記事の見所ポイント
- パブリックスペースにラワンの壁を採り入れ、レトロモダンな雰囲気に
- 家族の人数分の個室をやめて、広いリビングを実現
- すべての床を汚れにくく手入れがラクなフロアタイルで統一
- タイル、木、ステンレスやアルミなど、素材感のバランスに配慮
ご主人のお勤め先の社宅マンションから、持ち家マンションへと住み替えられたSさま。新居に選ばれたのは、デザインも外壁も味わいのあるヴィンテージマンションです。
敷地内には緑も多く、いかにも住み心地よさそうな雰囲気。お部屋への期待感が高まります!
この日対応してくださったのは奥さま。ご主人は四国へ単身赴任中、21才、18才、15才の息子さんたちはそれぞれ学校にお出かけでした。
「男の子が3人もいるから掃除が大変なんですよ~」と笑いながら招き入れてくださった奥さま。お邪魔したリビングは、どこか懐かしさの感じられるモダンな空間でした。
ミッドセンチュリーの家具が映えるダイニング
こっくりとしたブラウンの木の壁がレトロな印象。70年代の日本のモダン住宅のような雰囲気が漂います。
「母の実家の2 階がこんな色の壁で、それをイメージしたんです。遊びにきた母もすぐに気づいて『うちの2 階みたいね』と笑ってました」
壁の素材はラワン。ツヤなしのマットな質感ではなく、あえてニスのようなツヤのある塗装で仕上げ、レトロ感を高めています。
配された家具はほとんどがヴィンテージ。ダイニングは「Artek」の「KAARIテーブル」と「フリッツ・ハンセン」や「イームズ」のチェアの組み合わせ。TVボードは大田区にある「camori」で見つけたもので、イギリスかデンマークのヴィンテージだそう。
2枚のフレームは、タイプライターなどの事務機器を製造する「オリベッティ社」の広告ポスター。甘くないデザインがこの空間にぴったり!
なかでも目を引くのは、長いアームをもつモダンな照明。「セルジュ・ムーユ」の「SUSPENSION 3 BRAS PIVOTANTS」というインテリアプロダクトの名品です。
「どうしても使いたくて工事中に購入したのですが、設置できるか心配で。息子たちに支えてもらって、1 時間かかってやっと取りつけられました」
クールな機能美を備えたデザインは、まさに主役級の存在感。ほかのインテリアと同様、ミッドセンチュリーの魅力にあふれています。
「レトロでモダンなものが好きなので、やっぱり50年代に作られたものが多くなりますね。こういう家具や照明が似合う空間にしたくて、内装の素材やカラーを選んだんですよ」
床は「田島ルーフィング」のフロアタイル「モルタライク」。LDだけでなく、すべてのスペースの床をこの素材で統一しました。同じシリーズの中で、できるだけ黒に近い色合いを選んだそう。
床をフローリングにしなかったことで壁の素材感が引き立ち、モダンな家具もすんなり馴染んでいます。実はこの床材選びは、手入れのしやさも大きなポイントだったとか。
「とにかく男子は家を汚すんですよ(笑)。お菓子はこぼすし、手を洗ったあと拭かずに出てくるし…だから水濡れに強くて、拭くだけで汚れが落ちる素材にしたんです」
継ぎ目や表面の凹凸がないマットなテクスチャーは、店舗や公共施設などに使われていそうな印象。Sさま宅独特の、生活感を排した空間づくりにも一役買っているようです。
ヌックのようなサンルームでくつろぐ
ダイニングの奥はコーナー窓に囲まれたサンルーム。窓回りに「ニチベイ」のバーチカルブラインドを採り入れ、たっぷりの自然光を楽しんでいます。息子さんたちがそれぞれの居場所を確保できるよう、ソファは2台用意しました。
テレビの前に配置したのは「Pacific Furniture Service」の「CLUB 6」。座面はビニールレザーとファブリックのリバーシブルで、普段は手入れしやすいビニールレザーの面を使われています。
サンルームのソファもレトロモダンなデザイン。「D&DEPARTMENT」で購入したもので、「これも私の実家で使っていたソファに似ているんですよ」。天井にはアイアンのハンガーパイプをつけ、洗濯物の室内干しに役立てています。
「このサンルームが物件選びの決め手の1つだったんです」と奥さま。もともとS さま一家は近くのエリアにお住まいでしたが、ご主人が50才を迎えるまでに社宅マンションを出ることが決まっていたため、事前に物件探しをしていたのだそう。
「隣の駅にあるこのマンションがずっと気になっていて、空室情報をこまめにチェック。同時にリノベ会社をリサーチしていたら、SHUKEN Reさんの事例集の中に、このマンションにお住まいの方を見つけたんです!」
確信した理由はサンルームやバルコニーの造りが同じだったこと。「そのお宅も素敵でしたし、同じマンションのリノベを手がけている安心感もあって、他社とは比較しませんでした。住みたい物件とリノベをお願いしたい会社が同時に決まって、ラッキーだったと思います」
物件購入の段階からワンストップで相談してくださり、リノベ計画がスタート。間取りについても奥さまが明確なイメージをお持ちだったため、ほぼそのまま実現する形でプランニングが進みました。
リビングの一角が寝室に早変わり!
リビングにつながるこちらのスペースも、Sさまのご要望をダイレクトに反映させたもの。元は和室だった場所ですが、壁をなくして広いワンルーム空間にしました。
正面はダイニングと同じラワン材の壁。室内窓側の壁は白とグレーのクロスを貼り分けました。このツートンの色使いもクラシカルな印象です。
「ここは昼間は息子たちが趣味の筋トレに使っていますが、夜は寝室になるんですよ」。え?ここが寝室に?と驚くスタッフに、奥さまが収納スペースのカーテンを開けてくださると…
現れたのは2台の折り畳みベッド!上段には掛け布団がきれいに収まっています。夜になるとこれを引き出して広げ、次男くんと三男くんがやすんでいるのだそう。
「長男だけは大学の授業で使うものが多いので、個室をあげました。単身赴任中の夫にも1部屋を確保。さて下の2人はどうしよう…と考えて、リビングの一角で寝てもらうことにしたんです。
私も別の部屋から折り畳みベッドを運んできて、ここで寝ているんですよ。もちろん壁を立てればもう1部屋できるけれど、リビングが狭くなっちゃうでしょ。なにしろ人口密度が高いから(笑)、スペースの広さを優先させたんです」
夜しか使わない寝室より、昼夜兼用できるスペースをつくる――この発想にスタッフの目からウロコが…!限られた広さを無駄なく活かすアイディアとして、ぜひ参考にしたいですね♪
兄弟でワークスペースをシェア
寝室をパブリックスペースの一角にした分、勉強するためのスペースはしっかり確保。引き戸を立てて音と視線を遮り、集中できる環境を整えました。引き戸は「toolbox」でラワン材のものをセレクト。
引き戸を開けると、室内窓に沿ってデスクカウンターが2台。次男くんと三男くんが並んで使っているそう。アルミフレームの室内窓も「toolbox」の製品です。
背面のオープンシェルフには、本や教科書とともにフィギュアのコレクションがずらり。シェルフの奥はビビッドなターコイズの塗装で仕上げました。
使った塗料は「ベンジャミンムーアペイント」。「『toolbox』のショールームでサンプルを見つけ、プランナーさんに必要な量を試算していただいて購入。工事中に現場にお邪魔して、DIYで塗らせていただきました」
こちらのワークスペースは、奥さまが見つけてきた事例画像を元にプランしました。画像を見せていただくと、室内窓やカウンター、シェルフのレイアウトもほぼ同じ!
「シェルフの奥にアクセントクロスを使うアイディアも、その事例がお手本です。こんな空間がほしい!がそのまま形になりました」
素材のバランスが絶妙なキッチン
キッチンはLDを見渡せる対面式。カウンター回りは「ミラタップ」のシンプルな白の角タイルで仕上げました。
「プランナーさんのアドバイスで選んだ素材ですが、本当にタイルにしてよかった!こういう完成図を描けるのはやっぱりプロですよね。ラワンの壁との組み合わせがすごく気に入っています」
面材に木を使ったキッチンは「toolbox」。床をフローリングにしなかった分、木の割合が減りすぎないようにと考えて、木製キッチンを選んだといいます。
壁面の白いタイル、ダークグレーの床、カウンタートップのステンレス、ナチュラルな木目…素材と色のバランスを図ったことで、かっこよく洗練されたキッチンが生まれました。
キッチンカウンターの背面にはパントリーを。内部には棚を造りつけ、「無印良品」のストッカーを使って食品や食器などを整理しています。
パントリーのほかに用意した大型収納は、こちらのウォークインクローゼット。廊下から直接アクセスでき、コンパクトな中にご家族分の衣類を収めています。
奥さま自身のワードローブは、なんとハンガーパイプの幅60cm分(!)なのだとか。このミニマルなクローゼット術、難しいけれど憧れです!
洗面室を独立させて使いやすく
水回りのプランで特徴的なのは、洗面室と脱衣室を分離させたこと。右のドアが脱衣室、左のドアがトイレです。ほかの家族が入浴中でも気兼ねなく洗面台を使えて、ゲストを気軽に案内できるメリットも。
洗面台とミラーキャビネットは「ミラタップ」。壁のタイルはキッチンとお揃いですが、目地のカラーを濃い目にして、よりクールな印象に。
洗面台は水栓が壁づけで、カウンターとボウルは一体型。ここでもお手入れのしやすさとデザイン性を両立させました。
脱衣室はランドリールームを兼ねているので、脱いだ衣類はそのまま洗濯機へ。洗い物が多い家庭では特に重宝なプランです。
トイレは「LIXIL」のタンクレスタイプですっきりと。壁面は天井まで吊り戸棚にして、トイレットペーパーをたっぷりストックしています。足元の収納は床から浮かせて、掃除をしやすく。
最後にご紹介するのはエントランス。ここでもLDと同じラワンの壁と「オリベッティ社」の広告ポスターが、ご家族や訪れる人を迎えてくれます。土間はタイルのレトロな表情が気に入っていたため、竣工当時のままの姿を残しました。
曲線が美しいシーリングライトは「BOLTS HARDWARE STORE」。ここにも奥さまが温めていたレトロなイメージが反映されていました。
ご主人の転勤に伴い、これまで何度もお引っ越しを繰り返してきたというSさま。「ずっと賃貸住宅だったから、“住まいに暮らしを合わせる”のが当たり前でした。“暮らしに住まいを合わせる”のは、今回が初めて。中古リノベでやっと念願が叶ったんです。
もともとインテリア好きですし、いつかは自分たちの家をと思っていたから、20年近く構想を練っていたことに(笑)。完成したときは子どもたちもびっくりで、『本当にここに住んでいいの?』『ホテルみたい!』とはしゃいでいました」
ご入居後は棚板などのパーツを違う場所で使うなど、“暮らしに合わせる”カスタマイズを楽しんでいるそう。「細部まできちんと作られているからこそ、自由にカスタマイズできるんですよね。住めば住むほど『本当によくできてるな~』と感心しています」
お忙しい中、取材・撮影にご協力いただき、ありがとうございました。
取材・文/ライター後藤由里子
撮影/カメラマン清永洋